SCHEDULE
2024/03/21 19:30 ~ 2024/03/21 21:00
紅野謙介先生と対談をおこないます(3月21日@池袋ジュンク堂)
 3月21日(木)の夜に、ジュンク堂池袋で、紅野謙介さ...
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2024/03/19 23:35
【2024年3月1日】津村記久子さん、藤原辰史さんとトークイベントをおこないました(@Lateral 大阪)

 3月1日の夜に、大阪・梅田で、作家の津村記久子さん、歴史学者の藤原辰史さんと3人で鼎談をおこないました。津村さん、藤原さんというビッグなお二人に、私の『増補新装版 ローカルボクサーと貧困世界』を評していただける機会ということで、本当に夢のような時間でした。会場には、吉川徹さんもお越しいただいていて、とっても有り難かったです。

 この日の夜の思い出は、ひとり大切に胸にしまうこととして、津村さんの『水車小屋のネネ』(イベント後に津村さんにサインをしてもらいました!)について。この本は、短大に入学予定だった18歳の理佐がバイトで貯めていた入学金を、彼女の母親がお付き合いしている男性の事業のためにつぎ込んでしまい、理佐が短大に行けなくなることから始まります。そして理佐は、母親のパートナーの男性に怒鳴られる8歳の妹の律を引き連れて、渓谷の村の蕎麦屋に住み込みで働き始める・・・1981年に起こったこの出来事から、物語が開始します。

 その蕎麦屋は、蕎麦粉を水車小屋で挽いていて、その水車小屋にはネネと呼ばれるヨウムの鳥がいる。理佐と律とネネの三者の周りに、いろんな人たちが、立ち現れて、そして去っていく。物語はパンデミックの2021年で終わります。8歳だった律は、38歳になりました。

 貧しさとネグレクトの話が、この小説の大前提にあるのだけど、でも、その紋切り型で決して掬えない逸話が節々に収められている。私はなかでも、この本を通じて「与える」ことについて、ずっと考えていました。理佐も律も、他の登場人物も、決して余裕のある暮らしではないのだけど、でも、相談に乗ったり、自宅で取れた果物を持ってきたり、別れの日に見送りに行ったり、迷った人を手助けしたり、そうやって小さな与えること/与えられることを結晶化させて、固有の人生を形作っていく。忙しく働いている手を止めて、時間をその人のために与えて、やってくる人たちの姿。自分のことだけに注力する(これは理佐の母親の姿でもある)のではなく、他人のことを構いながら生きていく、ささやかな、だけど手応えのある人生。

 これは、富や名誉を「手にする」(あるいは「所有する」)ことを至上とする生き方とは、たいへん対比的なように思った。人が死の間際で直面するのは、その人が「与えて」きたものであって、その人が「手にして」きたものではないよな、と最近思ったこともあって、そんなことを考えながら、『水車小屋のネネ』を読みました。

 「与える」ということを強調すると、ユートピア的になってしまうのが嫌いなのですが(「美しい人間の姿」的な)、もっと人が生きていく実相で、与え与えられて生を形作っていく模様が、津村さんの小説には描かれているように思う。そしてそれは、誰かを「救う対象」として見るような救済論的な視座とは正反対であるようにも思いました。

 ・・・当日、私が津村さんの前で「ネネが〜」といったふうに、ネネをまるで自分の友達のように話してしまい、津村さんは苦笑されておりました。作中の人物をこんなに愛おしいと思うことは、そうそうないことだと思います。

2024/03/19 22:56
【2024年2月22日】猪瀬浩平さんとトークイベントをおこないました(@UNITÉ)

 旧知の猪瀬浩平さんと対談をおこないました。場所は、これまでもお世話になってきた三鷹の書店UNITÉでした。猪瀬さんの『野生のしっそう』と私の『増補新装版 ローカルボクサーと貧困世界』のダブル刊行イベントで、あっという間の90分間でした。

 終わってから、猪瀬さん、および来場者のみなさんの有志で、三鷹駅近くで飲みましたが、なんと参加者数が15名以上というUNITÉ史上、最大の懇親会参加者数だったのではないかともいます。本を出して、その本について著者が話をして、そこに聞きに集まってくれた方々と、終了後に卓を囲む。素敵な時間でした。

 猪瀬さんと初めて会ったのは、コロナ禍前のたしか2020年だったように記憶しています。もちろん、その前から猪瀬さんの仕事は読んでいたのだけど、会うきっかけになったのは、藤原辰史さんのサントリー学芸賞の表彰式に二人とも参加していたからでした。藤原さんフリークの猪瀬さんと私。

 猪瀬さんの今回の本では、ブルーハーツの逸話が複数出てきて、甲本ヒロトの実家が、私の実家のすぐそばだったこともあり、ブルーハーツ話でも盛り上がった夜でした。

 このトークイベントの趣旨文は以下。いつものようにUNITÉの大森さんが作成してくださいました。

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他者とは何か
──身体性から考える

<告知文案>
「他者」って曖昧で掴みどころがない言葉です。なんでも包摂してくれそうな気がするので便利な言葉ですが、はたして「他者」とは誰のことなのだろうかと疑問に思います。

猪瀬浩平さんの『野生のしっそう』(ミシマ社)を読んでいると、「自己」と「他者」の間に引かれる境界線が恣意的なものであることに気付かされます。たとえば日常生活において自分にとって都合の良い人に対しては共通点を見出そうとする一方で、都合が悪く距離を置きたい人に対しては相違点を探し出すという心理には身に覚えがあります。また自らが意識的に線引きをしない場合にも国家や社会によってすでに引かれている線を無意識になぞっていることが多く、その線の根拠を疑うことはあまりありません。そして、そのような恣意的な線によって切り取った「他者」にはおのずから自らとの違いが強調されるような端緒が含まれているような気がします。「他者はどこまで理解可能か」と問うとき、まず「他者」とは誰だろうと問う必要がありそうです。

その上で、今度は「他者」をどのように、そしてどこまで理解することができるのかについて考えるとき、猪瀬さんの『野生のしっそう』と石岡丈昇さんの『ローカルボクサーと貧困世界〔増補新装版〕』(世界思想社)は重要な手がかりを与えてくれます。猪瀬さんは(障害があるとされている)お兄さんのしっそう【疾走・失踪】と併走することで、石岡さんはフィリピン・マニラのスクオッター地区のボクシングジムでボクサーたちと生活を共にすることで、それぞれ血肉のある他者理解へと迫ります。猪瀬さんは文化人類学、石岡さんは社会学と専門にする分野は異なるものの、その方法には共鳴するところが多いように思います。ここはぜひお二人の対話から探りたいところですが、その一つには同じ方向を向いた他者理解のあり方があるといえそうです。つまり、動物園で檻の中のライオンを観察するような対象と向き合った視線ではなく、一緒に併走したり、ベンチで横並びに洗濯物を洗ったりするときのような同じ方向を向いているような視線のあり方です。

他者がヴァーチャルに捉え難くなっている社会の中で、改めて「他者」の存在について、そして「他者はどこまで理解可能か」という問いについて考える緒になるような時間になればと思います。ぜひ、一緒に走りましょう。ご参加お待ちしております。

2024/03/19 22:45
【2024年2月】マシュー・デスモンド『家を失う人々』(海と月社)の書評を共同通信配信で書きました

 マシュー・デスモンド『家を失う人々』の書評を共同通信配信で書きました。今週から、沖縄タイムスほかで掲載されているようです。

 デスモンドは、大好きなアメリカの社会学者で、最初の著作は山火事に対処するレンジャー部隊のエスノグラフィーであるOn the Firelineでした。あっという間に燃え広がる山火事に立ち向かう勇敢なレンジャー部隊のマスキュリニティの社会的生産を論じた本です。そして2冊目が本書『家を失う人々』(原題はEvicted、2016年)でした。この本は、本当に素晴らしい本で、ピューリッツァー賞の受賞作。黒人ゲットー研究の大家ウィリアム.J.ウィルソンが賞賛し、さらに世界社会学会会長だったマイケル・ブラウォイがOn Desmondという批判論文を書こうという気になるまでに、多くの人びとを惹きつけた名著です。その翻訳が出たということで、喜んで書評を引き受けました。

 本書は、ディテールの記述が素晴らしいのですが、読みどころは実は脚注にあると思います。そこに込められた丁寧な文献注こそが、エスノグラファーにして(中範囲の)理論家でもあるデスモンドの凄みのように思います。脚注を一個ずつ追っていくだけでも、ものすごく社会学の勉強になる。ぜひ、手に取ってみてください。

 共同通信の配信ですが、続々と地方紙で取り上げられています。確認できているもので、以下の24紙があります。このうち、沖縄タイムスのリンクを載せておきます。https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1306331

  山陰中央新報(2/10)
  秋田さきがけ(2/10)
  東奥日報(2/10)
  北日本新聞(2/10)
  沖縄タイムス(2/10)
  中國新聞(2/11)
  下野新聞(2/11)
  北國新聞(2/11)
  京都新聞(2/17)
  南日本新聞(2/17)
  日本海新聞(2/17)
  山梨日日新聞(2/17)
  長崎新聞(2/17)
  徳島新聞(2/18)
  神奈川新聞(2/18)
  埼玉新聞(2/18)
  神戸新聞(2/18)
  熊本日日新聞(2/18)
  山陽新聞(2/18)
  岩手日報(2/18)
  福井新聞(2/18)
  静岡新聞(2/25)
  愛媛新聞(2/25)
  新潟日報(3/3)